今日は終業式だったので…
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



途轍もない極寒から、いきなり花見どき、
いやいやGW並みの気温にまでなった、弥生半ばの関東や西日本で。
確かにこの時期は、まだまだ南下を続けてる寒気団と
いやいや、そろそろウチらの出番でしょうと、
北上して来る春の気団とが、
寒冷前線を挟んで押し合いへし合いするもんだから、
例年からも寒いと暖かいが日替わりで入れ替わる頃合いじゃあありますが。

 “ここまで極端から極端だってのは珍しいんじゃないですかね。”

10度近くも差があるなんてね。
急に涼しくなってでもまだ昼間は暑い、
秋口の朝晩でだったらそういうこともあるようだけど。
この冷え冷えと
少し暖かいっていうのとの組み合わせでは
さすがにキツイよねぇ、うん。
まあ、私はまだ十数年分しか蓄積もってませんから、
いやいや昔はこうだった、
先年からの節電とか何とかで環境が逆行したお陰様、
懐かしいあの頃が復活しただけということなのかもしれませんが…なんて。

 「〜〜。」

布団の端から出ていたお鼻がちょみっと冷たかったため、
ああ今日は寒いほうの日なのかなと、
ぼんやりしたお目覚めと同時に気がついてのこと。
起き上がれない理由を見つけんと、
ふかふかな羽毛布団へ もそもそもぐり込み直しつつ、
グルグル考えていた ひなげしさんこと平八さんだったのだけれども。

 「お〜い、ヘイさんや。今日は学校に出るのだろう?」

遠くから呼びかけて来る、
五郎兵衛さんの優しいお声が聞こえて来たもんだから。
実は とうに思い出してたけれども蓋していたこと、
あー、そうだったなぁと、
白々しくもやれやれと引きずり出していたりして。
外部受験の段取りがあってのこと、
二月半ばの少し早めの期末考査のあとは授業もなくて。
その後、三月の初めに卒業式があったそのまま、
出席日数補填のための補習授業やら、
試合が間近い部活動やらがあってという事情がない限り、
特に登校することもなく、すっかりと春休みモードとなってたものの。
いくら のほほんと朗らかな校風のお嬢様学校でも、
さすがに学期の終しまいという節目をはっきりさせる必要はあるようで。
中には1か月も逢ってないままなお友達もいるのだし、
この下宿先も学園の真ん前も同然なほどの近距離なので、
学校へ向かうこと自体には不平も不満もないものの、

 “……うう"。”

よっこらせと身を起こしての、半正座になったまま、
ややもつれた髪をもしゃもしゃ掻き回しつつ、
ひなげしさんが その小さな肩を
心持ち落としたまんまでいたのは何故かと言えば…

 “通信簿の日かぁ。”

何のことはない、
学生さんならではの憂鬱な理由からだったりし。
一応は高校生なんだから、
段階評価ではなく試験の点数が記された表が渡されるのではあるが、
赤点を取ってしまった教科への補習は、
科目によっては試験休みの間に設けられるが、
受験生への対応などでお忙しいせんせえともなれば
在学性は後回しになったその結果、
春休みに出て来なさいとされることもあり。

 “う〜んと。”

試験の後にお友達同士で答え合わせはした。
苦手な英文法も、地理も世界史も、
久蔵殿やシチさんから、
大丈夫大きな失点はなさそうだよと言われているから、
補習組にはならないとは思うんですが、う〜ん…と。
ごくごく標準型のPCやスマホでああまでのネット干渉が出来、
マイクロカメラ内蔵の小道具から
どこへでも仕込める特殊警棒や
霧の中へ3D映像を映し出すプロジェクターまで、
機巧的工夫もお任せという希代の天才児でも。
春休みが削られるのが憂鬱…なのは、同んなじであるようで。
だいじょぶだいじょぶと、おまじないのように呟きながら、
ネルのパジャマを脱ぎ去ると、
どれにしよっかなと整理ダンスを掻き回して可愛いブラを選び出し、
機能性インナーの上へ制服着込んでから、
そのまま洗面所へ駆け出して。
お顔を洗って歯を磨き、
自慢のさらさらヘアにブラシをかけて、さて。

 「ゴロさん、おはようございますvv」

飛び込んだお茶の間の卓袱台の上、
揚げ団子の甘酢あんかけに、枝豆入りのポテサラ、
レタスと玉子の黄金チャーハンに、
アサリの利いたクラムチャウダーという、

 「…うわあvv」

大好物づくしモーニングだったものだから、
朝っぱらから“どひゃあvv”と大きな声が出ちゃったひなげしさんであり。
うわぁうわぁvvと大喜びなところへ、
デザートですよと、後から運ばれたパンケーキ。
いちごクリームだろうピンクの帯でのトッピングでリボンを描いてあった上、
HAPPY WHITEDAYと綴られたプレートもあったので……

 『ついつい勢い余って、ゴロさんの頬っぺへ ちうしちゃいましたvv』

いやぁんvvと恥じらいつつも、お友達へご報告した、
ひなげしさんだったりしたそうです。




      ◇◇◇



東京は雨の朝。
昨日吹き荒れた突風こそ収まってはいるけれど、
気温も、前日のGWかというほど暖かだったのからぐぐんと下がり、
吐息が白くけぶるほどの寒さへ逆戻りしていて。

 「………。」

学校指定のコートに手套、
襟元には短めのマフラーを装備して、
玄関ホールからポーチへと踏み出す。
華美でないならと、こちらは規制がゆるやかなので、
濃色のコートをさりげなく彩る深紅のマフは、
実は大好きなお人からの贈り物だったりし。
寒い冬だったのへはうんざりしたものの、
暖かくなって来るとそれはそれで、
このマフラーを仕舞わねばならなくなるんだなぁと、
となるのは ちょっぴりアレかなという(アレって…)
そっちの感慨の方もわいた、紅ばら様こと久蔵お嬢様だったりし。
メイドさんやら庭師の方々やら、手の空いている運転手さんなどなどから、
そのためだけにわざわざ出て来なくてもいいよ、
でも居合わせたなら目礼はしようねというレベルのご挨拶を受けつつ。
白い手の先、ぽんっと軽やかな音を立てさせ、
赤いチェック柄の愛用の傘を開くと、
小雨の中、ゆるやかなスロープを降りてゆく。
寒いのは苦手かな。
でも暑いのよりは平気かも。
指先が冷たいと、兵庫がどらと握っててくれる。
小さいときは始終だったな。
最近は、えっとうんと、
ああそうだった、
バレエの公演の前とかだけになっちゃったかな。
でもいいんだ。
小さいころは屈み込んでくれなきゃお顔とか遠かったけど、
今はこっちも背が伸びたので、目線もすぐに合うし。
そうそう、そのまま じいって見てると、
何でだか目が泳いでしまう兵庫なのがちょっと可笑しいし…なんて。

 ちょおっとお待ちなさい、紅ばら様。(笑)

その点だけは
白百合さんやひなげしさんへ報告した方がいいと思うのですが。
そして、適切なアドバイスをもらった方がいいと思うのですけれど。
ねえ? 皆さんもそう思いませんか?(誰に訊いている…)

 「…?」

そんなこんなという考え事が余裕で出来ちゃうほど、
まずはの門柱までが結構な道程の三木さんチなのだが。
その正面門のすぐのお外に、見覚えのあるセダンが1台。
それなりのお宅だ、
不審な車がそんなところに停車していたならば、
お嬢様の登校時間でもあり、
執事の誰かか、あるいは運転手の若手が、
失礼ですが何か御用でしょうかと、
やんわり“離れてください”という注意をしに飛んで行くところ。
それをしなかったらしいということはとかどうとか、
朝っぱらから推察を巡らせるまでもない。
こちらを見てだろう、運転席のドアが開き、
そこから降り立っていらしたのは、

 「…兵庫。」

そちらも寒雨に備えてだろう、
ちょみっとカジュアルなPコートだとはいえ、
しっかりした素材の上着をまとった、
すらりとした痩躯も凛々しい、
お嬢様の主治医のせんせえの姿だったりし。
とはいえ、車での送迎は原則禁止の学園だし、
いくら彼自身も通うついでだと言ったって、
そこのところは、むしろ融通の利かない兵庫さんのはずなのに。

 「??」

じゃあ何の御用かなぁと、
傘の下で 少しほど沈んだ色合いとなった金の綿毛ごと、
久蔵お嬢様が幼い仕草で あれれぇと小首を傾げておれば、

 「今日は私も登校日なのでな。」
 「……。(頷)」

お嬢さんの通う女学園の校医も兼任なさっておいでの榊せんせえ。
終業式のある今日は、備品チェックも兼ねての登校日であるそうな。
なので、

 「学園までだと違反となるが、最寄りの駅までなら構うまい。」
 「…………………。」

う〜ん、それはどうだろうかと、しばし考え込んだらしかったものの。
車のルーフの上へと覗いてた、榊せんせえの細おもてが、
くすすと小さく笑ったものだから。

 「……。(頷vv)」

ああこれはアレだと、ピピンと来た久蔵だったのは、
付き合いが長ければこその、一種の“阿吽の呼吸”のようなもの。
こうまでのお家のお嬢様という久蔵には、
小さいころから何かとお行儀や作法も問われる場面が多くって。
幼いからこそ普段からも呼吸のようにこなさねばとばかり、
楽しいはずのお食事やおやつの時間も、
結構 畏まらにゃあならなかったのだけれども。
こちらのせんせえと引き合わされての以降はといえば、
まだお若いせんせえならではで、

 “大おとなの皆さんには内緒な”と

ホントはいけないことだけどというズルを、
内緒というおまじないつきで共有しても来た。
暑い日のお出掛けでは、出先で寄り道してアイスをこそりと食べたり、
大事なご挨拶、堅苦しい礼服で伺ったその帰りは、
とっととフラドレスばりの涼しいワンピに着替えたり。
やはりやはり堅苦しい式典の最中、
お腹が空いたなあとうつむいてると、
ウエハースをそろりと差し入れてくださったの、
音を立てずに頑張ってしがみつつ食べてみせ。
後で二人だけで“上出来 上出来”と笑い合ったり…と、
語り始めればいろいろとキリがなく。

 “……。”

当然、本来はダメなことである以上、
露見すりゃあその端から、
実は兵庫さんが関係各位へすみませんと謝ってたらしくって。
さすがに最近は、
そんな格好でのフォローにも
薄々気づき始めている久蔵さんだけれども。
それと同じほど、
大人の予備軍としての作法もマナーも
しっかと身についているのでもう問題はないのだし。

 “だって…。”

ただの甘やかしじゃない、我儘への増長でもないと、
お嬢様の側でも、最近になって気がついた。
内緒のおやつへのはからいは、
美味しいおやつへ笑わなくなってたり、
どれが好きかも判らなくなってたりを見かねてのことで。
そんな味気ないことでは
ロクなお嬢さんにならんぞと案じられたからだったし。
今日のこれだって、厳密にいやぁ いけないことだが、
暖かい車内へ入った途端に、
ちょっとばかり鼻が鳴った紅ばらさんだったりし。
何せこれでも体が弱かったお嬢様ゆえに、
花粉とそれから
急な寒さを案じてくださってのことのようであり。

 「……。」

もうすっかりと元気なんだのに、
兵庫ってばいつまでも過保護だなぁとか。
そうは思いつつも、ままいつものことという温度にて、
ゆったりと走りだした車なのを感じつつ、
雨の跡が水玉になった窓へ視線を投げておれば、

 「帰りはちょっと付き合ってもらうぞ。
  いつもの顔触れでの寄り道は断れな?」

 「……?」

明るくはあっての白っぽい風景の中、
静かな走行音にあっと言う間に紛れてしまった一言だったが。
え? お迎えもあるの?と聞き返すよに、
お隣りを見返ってのせんせえのお顔を見上げれば、

 「だから。その…いい映画があると聞いたのでな。」
 「ああ無情だと寝るぞ。」

じゃあドラえもんにしようか?
オズもスペクタクルだと訊いたがどうだ?と。
レ・ミゼラブルを間違えたんじゃなく、
これでも久蔵なりに茶化した冗談だというのの、
ちゃんと話も通じてて。
しかもすかさず、楽しそうにその先を捌いてくれるのが、

 「……vv」

何だか嬉しくて、何とも楽しくてしょうがない。
間のいい何かとか、どう返せばいいのかが判らないので、
何にも言えないままなお嬢さんだけど。
マフラーへ細い顎先うずめて、誤魔化すようにうつむいたそのお顔の、
でもでも口元がむにむにと微かにほころんでいるの、
ちゃんと気づいてる兵庫せんせえだから大丈夫。
それよりあのね、
今日は何月何日か、気づいているかな? 紅ばら様。
榊せんせえがチョコのお礼だと、
春向けの薄手の花柄ストールを選んで用意していると判るまで、
あと半日以上はかかるかな?
お友達に言われて何かしらピンと来ても
そこは知らん顔を決めるんだよと、ちゃんと助言してもらいなさいね?







NEXT



戻る